勤めている会社では、日本に帰国するタイミングで健康診断を受けなければならない。ほかの会社で受けたことがないが、わが社は基準判定が厳しすぎる気がする。数あるパラメーターのうち、一つでも基準値を満たしていない、あるいは超えているものがあれば、総合評価はがた落ちである。かくいう私も、悪玉コレステロールの値が基準値より少し高く、善玉コレステロールの値が基準値より少し低いという結果が毎回出され、それによって総合評価は高くない結果に収まっている。検査結果とともに送られる簡単なアドバイスも、酒を飲まない私にビールを飲むななどと、何の役にも立たない。
今回、めでたく悪玉コレステロールは基準値内で収まったため、善玉コレステロール増加対策にと、通勤前に近くの公園を散歩することにした。会社までは徒歩10分で行けてしまうため、意識しなければ運動不足になってしまうところ、会社の対面にある大きな公園を30分ほど歩くことにしたのだ。
歩いてみると、意外と多くのみなさまが、朝から様々に体を動かしていることが分かってきた。バトミントンをやっているグループがいる。もちろんへらへらなんてやっていない。コートに帽子、手袋をはめた私を横目に、半そでプレーする人もおり、1点を競う好ゲームを繰り広げている。ランニングをする人もいる。本気のランナーから気軽なジョガーまで幅広い。多分テレビででも見たのだろう、後ろ向きに走っている人もいる。また、テヘラン市が備え付けたと思われる、無機質な筋トレ器材を使いこなすおじいさんも結構いる。
何より目立つのが、太極拳ぐらいの人数が集まり、ラジオ体操よりも早いリズムの音楽を流しながら、円形の広場で体操をするおじいさん・おばあさんの集団だ。私は初めて散歩に出た日、あまりの音量に圧力団体のデモか何かかと思った。観察をしてみると、40~50人が毎朝、1時間弱の体操をしているようだ。「ほらもっと腕を上げて」、「ほらもっと元気よく」。コーチ役の男性は、韓国のバラエティー番組の司会みたいなマイクを頬にくっつけ、参加者を激励している。一体感を高めるためだろう、毎日テーマカラーが定められていて、それに沿ったアイテムを身に着けている。直近は赤い何かをみながつけていた。
体操が終盤に差し掛かると、隣り合った人たち10人程度でグループを作り、他のグループに大声でエールを送る。エール交換の文化は、日本の草野球からイランの公園まで広く浸透しているようだ。8時ごろ、私が出社のためにそろそろ散歩を切り上げようとするころ、体操もお開きとなる。終わった後はさっと帰宅するのが、何ともイランらしい。ぐだぐだ残って会話というのは、話し好きのイランのみなさまからすれば意外だが、私が知っている範囲ではあまり発生しないようだ。
平凡なイランを眺めつつ出社し、私が見たことをナショナルスタッフに話すと、「ああ、お金持ちのお年寄りの趣味だろ」とやや冷めた答えが返ってきた。確かに、スナップ(タクシー配車アプリ)に乗った時に、運転手が退職をした方というのはよく耳にする。物価上昇が激しく、年金だけでは生活できない人がいるのは、イランでも同じ事情らしい。一見平凡に見える朝も、格差の上の部分を見せつけられていたということである。
【ひとことペルシア語136】khodesh midune(ホデッシュ ミドゥネ)
:直訳は、「あいつ、自分で知ってるやろ」であるが、「知らんがな」というニュアンスで使われる。
【書物で知るイラン6】『「個人主義」大国イラン』 平凡社新書、岩崎葉子著
:イランの繊維業界をフィールドとする著者の鋭いイラン人観にうなずかされっぱなしの本。同じ著者が書いた『イラン商売往来』も併せて読めば、駐在中のストレスも少しは軽減されるかもしれない。
*なおこの記事は筆者の個人的な経験に基づいて記載されており、筆者の所属する組織とは全く関係がありません。
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