1歳6カ月を過ぎた息子が、ますますやんちゃになってきた。夜は比較的早めに寝てくれるが、朝両親をたたき起こすことから始まり、寝るまでガソリンが切れることはない。以前は週に1度ベビーシッターに来てもらっていたが、それだけではとても妻の負担を軽減できるレベルではなくなってしまった。
そこで私たちは、”保活”を始めた。これまでは、イランでの任期終了後に備え、日本の保育園入園申請に必要な書類を確認したぐらいだから、実質はじめての保活だ。調べてみると、4歳からの幼稚園は公立・私立共に存在するが、保育園は私立のみとのこと。保育園は保健省の管轄下で、例えば園児の数に対する保育士の数などに一定の指針があり、それらの指針を守っている園には、保健省から認定書が交付される仕組みのようだ。
例えば日本の地方自治体のHPを開くと、保育園情報が簡単に入る。テヘランは少し状況が異なり、仮にテヘラン市のHPを見ても、保育園情報は手に入らない。仕方がないからグーグルの登場だ。イランを巡って最近米国政府が特にやかましさを増しているが、グーグル先生はイランでも必須の検索エンジンである。政治とテクノロジーは別物であることを実感させられる。グーグルマップで表示された保育園に、片っ端から電話をかけまくる。もちろんこちらに駐在している日本人にはお子さんを保育園に入れている人もいるが、残念ながら立地条件から選択肢にならなかった。
電話をかけて分かったのが、2歳以上か未満かで、候補となる保育園数がかなり異なるということだ。2歳未満の子どもを預かるためにはおむつ交換部屋(ベッド、流し)を設置する必要があるため、そこに投資する保育園は自然と限られるのだ。運よく、車を使わずとも通える場所にあって、2歳未満の我が息子を預かってくれる保育園が、2園見つかった。
何園か比較して預ける保育園を決めたかったため、これ幸いにと、体験保育を申し込むことにした。この辺から、手続きの速度が恐ろしく上がった。電話で見学に行きたい日を伝え、実質手続きは終了。後は約束の日に3人で園に行き、そこでいくつも質問をして、あれよあれよと、体験保育をする日まで決まった。あまりのスピードに、父と母は驚いてしまった。もっともこれは、ネット空間に広がっている日本の”保活戦争”についての情報の影響もあるのかもしれない。
ともあれ、この2つから預かってもらう保育園を1つに決め、息子の保育園通いが始まった。特に年齢の低い子はお母さんのいないことに早く慣れる必要があり、できる限り毎日通わせた方がよいとのことで、保育園が休みの木・金以外、毎日通わせている。妻が毎朝送った時に息子は大泣きするようだが、今のところ、途中でママが恋しくなって、手に負えなくなるようなことにはなっていない。
日本の保育園に通わせたことがないので何ともいえないが、連絡帳を毎日渡してくれるなど、そのサービスは結構手厚い。連絡帳には、「昼寝をしたかどうか」、「おやつ/昼食を食べたどうか」や、「歌った歌」や「遊びの様子」他、「抽象概念」や「社会性」という項目が並ぶ。「社会性」には、この国らしく「ターロフキャルダン(←文字どおりの意味から離れ、人間関係を円滑にするために用いられる表現)」や、「感謝」などが毎日書かれている。ペルシア語・イラン文化を勉強したい父や母からすれば、なんとも羨ましい状況だ。
日本では個人情報の保護の問題があり、なかなか難しいと思うが、こちらは写真撮影専門の職員がいて、毎日の様子がテレグラム(SNS)を通じて大量に送られてくる。その写真を見る限り、わが子は保育園ではお利口さんに椅子に座ってお絵描きなどを楽しんでいるようだ。いうまでもなく、たまに家に持って帰ってくる彼の粘土細工の作品は、我が家の宝物である。
息子の成長速度は、驚くほど早い。最近では、意味のある単語を呟くようになってきたし、こちらの話は理解していることも多いようだ。半面、昼間保育園で気を張っているせいか、帰宅後の甘えモードがひどくもなっているのだが。わが子の成長にプラスになっていることを信じて、今日も保育園へ送り出す、父と母である。
【ひとことペルシア語146】beres!(ベレス!)
:ラグビー中よく聞かれる表現。ボールやボールを持った相手を追っかけている見方を鼓舞するときなどに使う。おそらく、"khodetan ra be tup beresanid(ボールに追いつけ!)"を思いっきり切り取った表現だと思われる。
【書物で知るイラン16】『サラバ!』西加奈子、小学館
:イラン革命前に、父親の仕事の関係でテヘランで生まれ、2歳までその地で過ごした筆者が、その半生をベースとして執筆した小説。直木賞受賞作の本作の冒頭が、テヘランでの生活に充てられている。私が普段あまり読まない分野の本でかつ、数年前に読んだ本であるため、正直そのテヘランでの生活の描写以外、詳しいことはよく覚えていない。ただ、同じぐらいの息子がテヘランにいる今、彼が大人になった時、こんなふうにテヘランでの生活を思い出してくれたらいいなと、夢想しているのでる。
*なおこの記事は筆者の個人的な経験に基づいて記載されており、筆者の所属する組織とは全く関係がありません。
海外赴任時に必要な予防接種や健康診断が可能な全国のクリニックを紹介しております。