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160. 歴史と日常

カテゴリ 中東

もう半年も経ってしまったことに我ながら驚いているが、今年のイラン正月(3月下旬)は、ゲシュム島、バンダレアッバース、ヤズドへ旅行に行ってきた。ヤズド以外は昨年のイラン正月にも訪れた場所である。成長がないといえばそれまでである。だが暑くなって物理的に行くのが難しくなる前に、どうしても海の幸が食べてくて、磯の匂いを浴びたくて、テヘランから遥か1,200kmの地を再度訪れることにしたのである。

今回はそんなゲシュム島のお話。ゲシュム島といっても、実は今回はゲシュム本当には宿泊していない。そこから2kmの沖合に浮かぶヘンガーム島に泊まったのだ。イルカのような形をしたゲシュム島の、ちょうど下腹のあたりにある小さな島である。先にこの島に行った知人が宿を紹介してくれたため、泊まることにしたのだ。

本島からは船で30分程。船といっても船頭が一人のボートである。高波が来たら、多分海に投げ出される。ま、内海なのでそんな波はあまりないのだろうが。岸につくと静かな海岸が横たわっていた。子どもたちは海ではしゃぎ、母親たちはこの地域独特のマスクを目につけてその子どもたちを見守っている。ぞうりがなかった私は、少し離れたところからその光景を見守っていた。聞こえてくる言葉はもちろんペルシア語ではない。外国人を見るとペルシア語で話しかけてくるのは、イランの地方ではよく遭遇する。

キャプチャ
(女性用目のマスク。イラン南部や対岸のアラビア半島で見られる風習とのこと)

バーザールはどこかと聞けば、歩いて5分程だという。宿に荷物を置いて、早速出かけてみた。そうしたらそのバーザール、海岸線にあって、そして海の方に向かって建てられていた。私が行ったときには干潮で、バーザールから波打ち際まで20mほど距離があった。翌日訪れた時には満潮で、波打ち際がバーザールの入り口にまで迫っていた。きっと船で行き来をする人々目当ての商売なのであろう。この辺りはイルカウオッチングが有名で、結構な数の船が往来する。また漁業も当然やっているものと思われる。バーザールをぶらりとした限りは、貝がらを使ったアクセサリーや、サンボサ、日本語でいうサモサのお店など、生活感がないものばかりを売っていたから、きっと日用品のバーザールはここではないところにあるのだと思われる。

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(こんな感じ。江の島でもよく売ってる、家に持って帰った瞬間に扱いに困る代物)

カニのサンボサをむしゃむしゃやりながら海岸線をぶらぶらしていると、何やら見慣れない物体が波打ち際に打ち寄せられていた。

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(写真真ん中左、海にせり出しているものがそれ。ちなみに右側の小屋がバーザール。干潮時にこれぐらい距離の海が、満潮時にはバーザールの建物ギリギリまで迫ってくる)

近寄ってみると船の形をしている。しかしすでにさび付いており、しばらく船としては使われていないようだ。

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(こんな感じ。形から船ということは辛うじてわかる)

さぞかし古い船なんだろうなと思い、そこらを歩いていた人にあれはいつの船か聞いてみた。するとその人は「ああ、あれはポルトガルの船だよ」と何の気なしにいう。最初、「そうか、フーン」で済ますところだったが、ちょっと待て。ポルトガルがこの辺りで勢力を伸ばしていたのは、いわるゆ大航海時代、16世紀ごろの話である。後で調べたらやはりその世紀の初めに、一時期この島をポルトガルが支配していたらしい。この船400年もここに鎮座しているのである。雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ。宮沢賢治もびっくりだ。そっと近づいて触ってみた。歴史の鼓動が感じられるかと思ったが、さびた金属の匂いがした。
悲しいかな、現在ホルムズ海峡では米国とイランがつばぜりあいをしているが、この辺りは少なくとも400年以上前から、重要な交易路であり続けたということなのだろう。

夕方散歩がてらもう一度このバーザール海岸を訪れてみた。子どもたちが廃船の周りで遊び、大きな船がその近くを航行していた。

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(子どもたちにとっては、何の変哲もない日常)

何の変哲もない日常に、こうやって歴史が入り込んでくる経験。イランでは時たま出くわすが、そのたびにくらくらさせれてしまう。400年も500年も昔のものが、あんまり特別扱いさせず、日ごろの風景に溶け込んでいるということは、日本で経験できることがないからだ。

そんなことを考えながら島をぶらぶらしていると、イラン暦1397年が今にも終わろうとしていた。私は急いで新調したキャノンの一眼レフを手に取り、1397年最後の太陽を無事にシャッターへ納めることに成功した。ゲシュム島で初日の出を拝み、ヘンガーム島で最後の太陽を見おさめる。1397年は素敵な年であった。

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(さようなら、1397年。来年はどこでこの太陽を見ているのか。)




【ひとことペルシア語160】to saf bashid, khanom(トゥー サッフ バーシード, ハーノム) 
:"列にいてくださいな、お姉さん"という意味。男性女性に関わらず平気で順番ぬかしをしてくる(特にこちらが外国人だとわかると)お国柄。ぼそっと呟けば、一瞬は怯んでくれる。ハーノム、をagha(アーガー)に言い換えれば、相手が男性の時に使用できる。



【書物で知るイラン29】
『グローバル都市を生きる人々-イラン人ディアスポラの民族誌』椿原敦子著、春風社
:その昔『3年B組金八先生』で、「あなたは周りの人から自分の名前を呼ばれて、そこではじめてあなたになります」と、金八先生が生徒に語りかけたことがあった。
本書の研究対象であるアメリカに移住したイラン人に金八先生はいない。だが彼らは生まれ故郷から離れたところで生活することで、自らのよって立ってきたところを初めて認識するようになる。筆者は当事者に対するインタビュー等を通じ、その過程を描き出す。そこには、それまで「別人」と認識してきた同郷人が、「イラン人」として他者からひとくくりに認識されるということも当然起こりうる。アイデンティティーを巡る旅である。

イランに住んでいるとかならず、自分の親戚が欧米に暮らしているという人と知り合う。そのような人々の欧米での生活状況は、これまで断片的にしか伝わってこなかったが、本書でその一端を垣間見ることができた。




*本記事は筆者の個人的な経験に基づいて記載されており、筆者が所属する組織とはいかなる関係もありません。

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サラームまでの距離

http://blog.livedoor.jp/mizutani67/

イランの首都テヘランに駐在中の筆者が見た、この国の模様を執筆するブログ。駐在先としてあまり聞かないと思われるイランの様子を肌で感じられるような記事を週に一回アップ中です!

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