ちょいとええ話「戻ってきた手袋」

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先日こんなお話を聞いた
昔かたぎの頑固なおじいちゃんと
長年連れ添ったおばあちゃんの物語

ある日その老夫婦は月に一度通う
家からかなり離れた病院へ行った
帰りに病院の最寄り駅から
二駅過ぎた電車の中で
おじいちゃんはおばあちゃんに言った
「手袋が見当たらない・・・
切符を買う時に落としたかもしれん」
おじいちゃんには愛着のある高級な皮手袋だった
「おじいさん、すぐ降りて駅員さんに尋ねてみましょう」
「いや・・・途中だからこのまま」

それから30分ほど電車に乗って
乗り換えの終着駅で駅員さんに尋ねた
親切な駅員さんは問い合わせてくれて
「落し物の手袋が届いているそうです
色も材質も同じだから
きっと切符を買う時に落としたのでしょう
この切符のままで良いですから
取りにいったらどうです？」
笑顔で答えてくれた
おじいちゃんはほっとしておばあちゃんの顔を見た
おばあちゃんは駅員さんにお礼を言った後
歩き出したおじいちゃんの横に並んだ
老夫婦はまた折り返しの電車に乗った

その一週間後天気のよい日に
夫婦は久しぶりに趣味のパチンコに
バスで出かけた
途中で学生が大勢乗り込んできた
バスを降りたところでおじいちゃんは
あの手袋が無いのに気がついた
ポケットを探したり
おばあちゃんに聞いたりした

バスはすでに動き出していた
老夫婦のその有様を
バスの窓から見ていた女学生がひとり
ふと見ると床に手袋が片方落ちていた
『あのご夫婦はこの手袋を探していたんだわ』
そう思った女学生は次のバス停で降りて
さっきの老夫婦の後を追った

「おじいさん、仕方ないもうあきらめなさい」
おばあちゃんが言った
おじいちゃんは肩を落として歩き出し
パチンコ屋に入った
おばあちゃんはなじみの店員さんに話した
「おじいさんが大切な手袋を落としてしょげている
先日も落としたばかりなのにまた・・・」
店員さんは言った
「見つかると良いけど・・・」

しばらくして
さっきの店員さんが一人の女学生連れて来た
「おばあちゃん、落とした手袋ってこれ？」
差し出された片方の手袋は
まさにおじいさんの大切な手袋だった
おばちゃんは本当に驚いた

その女学生は笑顔で話し出した
窓から二人の様子を見た後
手袋を見つけて
きっとこの夫婦のものだと思ったから
追いかけてきた
すでに姿は見えなかったが
パチンコ屋に入ったようだったので
店員さんに手袋を落とした老夫婦を探していると尋ねた
まさにおばあちゃんと話していたあの店員さんだった
そうしておじいちゃんの大切な手袋は戻ってきた

老夫婦は何度も女学生にお礼を言い
ベンチに座ってお茶を飲みながら話をした
「もうあきらめていたんだよ
わざわざバスを途中で降りてまで届けてくれて
本当にありがとう」
おばあちゃんのうっすら濡れた目には
この親切な女学生が輝いて見えたという
老夫婦は店員さんにもお礼を言って家に帰った

おばあちゃんはこの出来事を
遠く離れて暮らす二人の息子に電話で話した
「おじいさんが手袋を二回も落として
人様に迷惑をかけてついてなかったよ」
次男は言った
「それはついてたなぁ
手袋が二回ももどってきたなんて」
おばあちゃんはニコニコ答えた
「それもそうだねぇ」
次に長男に電話で話した
「それはついてたなぁ
そんな素敵な人たちに出会ったなんて」
おばあさんはニコニコ答えた
「それもそうだねぇ」

おばあちゃんもおじいちゃんも
ちゃんとわかっていた
この手袋が戻ってきたこともうれしいが

親切な駅員さんや
話を聞いてくれた店員さんや
あの輝いていた女学生の優しさを

自分たちがとても素敵な物語に
出会ったことに感謝していることを

大切な人達に伝えることが
それがあの親切にしてくれた皆さんへの
恩返しだということを

これからもあなたに良い事がありますように
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